大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和63年(ワ)8121号 判決

原告 太田慎一

右訴訟代理人弁護士 杉山廣

被告 深田英之

右訴訟代理人弁護士 伊藤庄治

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、別紙物件目録第三記載の工作物等を撤去して、同目録第二記載の土地を明け渡せ。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、別紙物件目録第二記載の土地(以下「本件土地」という。)について一一九〇分の一〇八四の持分を有している。

2  被告は、本件土地上に別紙物件目録第三記載の工作物等(以下「工作物等」という。)を設置してこれを占有している。

3  よって、原告は被告に対し、本件土地持分権に基づき、工作物等の撤去及び本件土地の明渡しを求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求原因1の事実は否認する。

2  同2の事実は認める。

三  抗弁

1(一)  訴外三木平吉(以下「訴外三木」という。)は、昭和二六年五月一〇日、本件土地を所有の意思をもって占有し始め、同四六年五月一〇日まで占有した。

(二) 訴外三木は、被告に対し、昭和四六年五月一〇日、本件土地及び別紙物件目録第四記載の土地を、期間を二〇年、賃料を一か月八五六〇円とするとの約定で貸し渡した。

(三) 被告は、本件土地の賃借人として、賃貸人たる訴外三木の本件土地についての右所有権の取得時効を援用する。

2(一)  訴外深田秀明(以下「訴外深田」という。)は、昭和二六年五月一〇日、本件土地及び別紙物件目録第四記載の土地を賃借の意思をもって占有し始め、賃貸人たる訴外三木に対し、同四六年五月九日まで賃料を支払い続け、本件土地を占有した。

(二) 被告は、訴外三木と、昭和四六年五月一〇日、右賃貸借契約の賃借人を訴外深田から被告に変更する旨の契約を締結し、同日から本件土地を占有して右賃料を支払っている。

(三) 被告は、訴外深田の本件土地についての右賃借権の取得時効を援用する。

四  抗弁に対する認否

1(一)  抗弁1の(一)の事実は争う。

(二) 同1の(二)の事実のうち、被告が右同日、訴外三木から本件土地を賃借したとの事実は否認し、その余は認める。

2(一)  抗弁2の(一)の事実のうち、訴外深田が訴外三木に対し、本件土地に相当する賃料を支払い続けたとの事実は否認し、その余の事実は認める。

(二) 抗弁2の(二)の事実のうち、被告が訴外三木に対し、本件土地に相当する賃料を支払っているとの事実は否認し、その余の事実は認める。

第三証拠《省略》

理由

一  原告が本件土地につき原告主張の持分を有することは、《証拠省略》を総合すればこれを認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はなく、被告が本件土地上に工作物等を設置してこれを占有していることは、当事者間に争いがない。

二1  《証拠省略》によれば、訴外三木は、昭和二六年五月一〇日、訴外深田に対し、本件土地が自己所有の別紙物件目録第四記載の土地に含まれるものであるとの認識のもとに、これらを訴外深田に対し建物所有の目的で賃貸する旨約し、右の土地全部を訴外深田に引き渡し、訴外深田は右の土地全部が訴外三木の所有するものであるとの認識のもとにこれを借り受けて、間もなく同地上に子息である被告名義で自宅を建築して居住し始めたこと、昭和四六年五月一〇日に至り、訴外深田は、右建物の所有名義と右の土地の賃借人の名義とを一致させるため右の土地の賃借人を被告に変更したいと訴外三木に申し込み、同訴外人もこれを承諾し、被告を賃借人とする抗弁1の(二)の賃貸借契約が締結されたことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。

右認定の事実によれば、訴外三木は、昭和二六年五月一〇日、訴外深田を占有代理人として本件土地を所有の意思をもって占有し始め、昭和四六年五月一〇日までこれを占有したことが明らかである。

なお、原告は、被告が本件土地に相当する地代を何人にも支払っておらず、本件土地は賃貸借の目的となっていない旨主張するので、この点について判断するに、《証拠省略》及び右認定の各事実を総合すれば、訴外三木と訴外深田とは、前記の土地の賃貸借の当初、右土地の総面積は合計一〇七坪(三五三・七二平方メートル)であると認識し、一坪あたりの地代単価を基礎として総賃料を算定したこと、しかし、後にこれを実測した結果、右の土地の面積が三五七・三三平方メートルであり、契約に定められた土地面積よりも実際に引き渡された土地面積の方が広かったことが認められるところ、右の事実によれば、本件賃貸借契約における土地の面積の多寡は、賃料積算の根拠とされたにすぎないと認められ、契約当事者が指示された数量(面積)をもって賃貸借の要素にしたとの特段の事情及びこれに基づく錯誤については、原告が何の主張もしないから、当初の賃貸借契約で定めた数量を超える土地部分が契約の目的となっていないとする原告の右の主張は採用の限りでない。

2  抗弁1の(三)は当裁判所に顕著であるところ、時効の援用制度が時効によって生ずる権利の得喪と個人の意思の調和をはかるものであることに鑑みれば、民法一四五条の時効の援用権者には、時効により直接権利を取得し、又は義務を免れる者のほか、この権利又は義務に基づいて権利を取得し、又は義務を免れる者が包含されると解すべきであるから、本件において、本件土地の所有権を時効によって取得する訴外三木から賃借権の設定を受けた被告は、同条の時効の援用権者にあたるということができる。

以上によれば、被告の抗弁1は理由がある。

三  よって、その余の点について判断するまでもなく原告の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 久保内卓亞 裁判官 菊池徹 齋藤繁道)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例